裏磐梯一法庵の建立の趣意書

 新しい道場の建立は既に始まっています。場所は福島県会津の磐梯山の北側「裏磐梯」と呼ばれる地域です。これまでの経緯と、これからの具体的な計画をお知らせします。

 私の経歴はこれまで繰り返し毎週の法話のなかで語ってきましたので、ここでは大略だけお伝えします。私は20世紀の終わりの約18年ほどを、曹洞宗の禅僧として過ごしました。1983年4月8日、兵庫県但馬の安泰寺で出家得度し、只管打坐の修行に打ち込んだあと、曹洞宗から開教師としてアメリカに派遣されて、マサチューセッツ州のヴァレー禅堂で3年ほどアメリカ人に坐禅を教えました。イタリアを経由して帰国後は、京都曹洞禅センター、高知の渓声禅堂などで坐禅の指導をしました。

1995年5月。京都にてティク・ナット・ハン​ 師との対話の会

 転機は1995年3月に訪れました。地下鉄サリン事件が起こり、それが宗教団体によって引き起こされた事実に打ちのめされたのです。その直後の京都でティク・ナット・ハン師にお会いして、直接教わったマインドフルネスこそが、いったん焼け野原になった日本の宗教(仏教)をゼロから再建する鍵だと確信しました。そこでマインドフルネス(サティ)を主に伝えてきたテーラワーダ仏教を日本で勉強したあと、21世紀の初めにその本場のミャンマーに向かいました。4年間パオセヤドーという瞑想の先生に直接指導を受けて、テーラワーダ仏教の瞑想メソッドを一通りやったのですが、その最終段階で何かとんでもないもの(謎のX)に出会いました。それはまるでUFOとの遭遇でした。2006年夏、日本に帰国した後は、その謎の探求に全力を尽くしてきました。

 帰国後の活動の本拠地は、太平洋に面した鎌倉稲村ヶ崎の一法庵でした。父が1985年に、私の将来のために建立してくれた小さな庵です。週末の別荘として父が住んでいましたが、高齢のために東京の実家から鎌倉まで通えなくなった頃、私が海外から帰国し、父と入れ替わりました。それからは鎌倉を根城にして、色々な場所にでかけてゆきました。日本国内だけでなく、インド、台湾、韓国などにも。各地で様々な人達に出会い、一緒に瞑想し、ハートとハートの対話をしながら、ダルマの理解を深めてきました。

鎌倉稲村ヶ崎の一法庵の前景

 ただ一法庵は建物も小規模のため、日帰りの瞑想会なら無理なくできますが、宿泊参加の接心は少し大変でした。近くの(精進料理家の藤井まりさんの)不識庵さんに男女のどちらかを泊めてもらうことで、開催してきましたが、大勢が参加する連休の時などは一法庵では対処できませんでした。そこで、御岳山の宿坊や民宿などを短期間貸し切りにして、毎月一回の接心、リトリートをなんとか続けてきました。

 そういう中で、自分達が自由に使える、もう少し広い道場を望む声が、サンガの中から上がってくるのは自然なことでした。実はそれを一番強く望んだのは私自身でした。私は既に、曹洞宗の禅僧、テーラワーダ仏教の比丘という枠を超えてしまってます。現在は「ワンダルマ仏教僧」という立ち位置なので、それに相応しい場所が必要です。独立しているという意味では、鎌倉の一法庵はその資格を満たしてますが、なんといっても小規模すぎる。もう少し大きなキャパの道場が、自然豊かな場所にあったらいいなぁと、我々の夢は膨らんでゆきました。

 では、どこに我々の道場を建立したらいいのか?2011年の東日本大震災によって、福島は大打撃を受けました。福島支援のために何かできないかと模索していた時、リトリートをやって、東北の人を無料で招待するのはどうか?それなら経済的援助をすると、台湾の知人(トレンドマイクロ創業者のスティーブ・チャン氏)に提案されました。早速、リトリートの場所を探して発見したのが、北塩原村早稲沢温泉の民宿湯流里でした。女将の小椋崇子さんもこちらの思いを完全に理解してくださり、それから毎年6月の新緑の季節に「福島リトリート」をしてきました。既に10回以上開催しました。2020年12月には初めて真冬のリトリートもしました。春夏秋冬、どの季節も素晴らしいことがわかり、この裏磐梯に新しい道場を作るのが我々には一番自然という結論になりました。

吾妻川探勝路のウォーキングメディテーション

 こうして、裏磐梯で具体的な候補地探しが始まりました。昨年6月の福島リトリートの後、会場の周囲を歩いて回ると、森に入る手前に素晴らしい場所を見つけました。鬱蒼とした緑の中に古い別荘がある(このサイトのカバー写真は、この時に撮影されたもので、“約束の場所”との最初の出会いです)。でも、もう何年も誰も訪れてないことは、雑草の伸び具合から明らか。このお宅をもう使っていないのなら、我々に譲ってくれないだろうか?登記簿で所有者にたどり着き、早速電話でご連絡すると、その方も手放したがっていたことがわかりました。すぐに話はまとまり、昨年7月に無事に買い取ることができました。

 前の所有者の建物は既に築30年ほどで、長年の雪害のダメージがあるのでリフォームは難しいという結論になりました。取り壊して更地にして、ゼロから新築することを決定しました。電気もなかったので東北電力に申請したところ、電柱4本が新設されて、既に電気は来てます。井戸の掘削も成功し、電気と水という最も重要なインフラが整いました。

 敷地は約600〜700坪あります。南に吾妻川という渓流があり、その向こうが森です。西吾妻山の麓になります。北側を通る村道はほぼ東西の方向です。なので、北の村道を背にして、南の吾妻川に向かう設計にしました。東西が長い長方形の建物によって、全室南向きが実現できました。設計のコンセプトは「太陽と雪に素直な設計」。寒冷地(札幌とほぼ同じ)なので、とにかく冬暖かい家を作るのが最優先事項です。最新の高気密高断熱の家にします。除雪も簡単にできるプランです。

 前田博史一級建築士による精密な平面図、立面図と、外観パースの完成予想図をどうぞご覧ください。25畳の坐禅堂、15畳の多機能(ヨーガ、食事、ミーティングなど)和室を中心に、実質本位の設計にしてあります。多人数が宿泊したときでも大丈夫なように、洗面所、お風呂、トイレなども複数設けてあります。

 この裏磐梯一法庵で、どんな闇にも打ち勝つ「最後の希望の光」が世界を照らし続けられますように、これから一法庵サンガ(チーム一法庵!)が、総力を挙げて取り組みます。皆さまにも、このプロジェクトにご参加いただけるなら、これ以上の幸せはありません。

 それでは、これからどうぞよろしくお願いいたします。

鎌倉一法庵 山下良道 九拝